不死鳥の騎士団
ゆうけいさんによると「ハリーポッターと不死鳥の騎士団」の日本語版がやっと出版されたようだ。我が家でも一時期はブームだったので四巻まではそろっているんだけど、どうも4作目あたりからはあまり人気がなくなり「五作目も買ってね」という声はとうとう聞かれずじまいになってしまった。ただし映画のほうは我が家では3作目の「アズカバンの囚人」が今までで一番よい出来だったと評判だったので、DVDが出たら買わなきゃいけないだろうなぁ。
ところで僕のリンクにある「不死鳥の騎士団を読む会」のBBSも『翻訳が出るまで』という条件だったのでもう終わりかな。僕は読み進んだものの途中で挫折していた第5章、まさに「不死鳥の騎士団 The Order of the Phoenix」の章を担当させていただいたが、結局半分も進めなかった。テキストは英国版のp.83まではOCRで読み込んでいたので、あわてて残り(1ページ分くらいしかないけど)を訳して今日、投稿した。
このBBSはプロの翻訳家でなおかつそれ以外にも色々と手がけておられる「ハリポタ好き母」さんが開かれたものだ。ハリポタ好き母さんは、お忙しい中を「ハリポタの生きた英会話」というメールマガジンを出されており、このBBSもそのメルマガで知って参加することになった。
今まで僕はもっぱら産業翻訳しか勉強してこなかったので、こうした文学的作品を訳してみるのはとてもやっかいながらも、面白かったし勉強にもなった。知らない単語はそれほどないんだけど、表現が微妙で意味をどうとっていいのか分からなかったり、いくつかの解釈が出来たりと、なかなかと難しいし、それを適切な日本語にするというのは更に面倒なものだ。しかしそれをうまく訳せたときの快感は何ともいえない。聞くところでは翻訳家はこの快感のために仕事をしているようなものだとか?
例えばこんな会話:
'Molly doesn't approve of Mundungus,' said Sirius in an undertone.
'How come he's in the Order?' Harry said, very quietly.
approveは認定なんていう堅苦しい言葉と思っていたんだけど、辞書を見てみると「「よく言う、好意的にみる」という日本語が最初に来ている。何たるチーア、approveの基本的な意味はこんなところにあったのだなぁ。
in an undertoneというのも辞書には「低音、小声」などとあるが、その後のHarry said, very quietlyとの兼ね合いを考えないといけないよね。
「モリーはマンダンガスを好意的に見ていないのだ。」とシリウスは小声で言った。
「なぜ彼は騎士団にいるのですか?」ハリーはとても静かに言った。
高校生の授業ならこれでもいいのだろうけど、読む側からするとかなり不自然だと思う。シリウスが「小声で言」って、ハリーが「とても静かに言う」のでは、どちらが年上なのか、どちらが主導権を持っているのか分からないような表現ではないかいな。だからシリウスは「声を抑えて言った」とか「低い声で言った」として、「ハリーは小声で聞いた」なんてすると二人の関係もはっきりしてくる・・・ように思うんだけどね。
で、僕の訳は:
「モリーはマンダンガスをよく思ってないんだ。」シリウスは声を低めて言った。
「なぜ彼は騎士団にいるの?」とハリーは小声で聞いた。
今見直してみると、「なぜ彼は・・」とするより「どうして彼は・・」とした方がもっとよかったかな。
英語のニュアンスというのは中々分からないんだけど、それを日本語にするときはどういうニュアンスで伝えるかがかなり自由になるので、かえって大変だ。僕はプロではないから、まぁ適当なもんだけど出版するということなら登場人物の一人一人の言葉のクセなどもよく考えないと駄目だろうな。
「モリーはな、マンダンガスのこと、なんか良く思ってへんのや。」シリウスは声を低めて言った。
「なんで彼が騎士団にいるん?」ハリーは小声で聞いた。
今回の訳でちょっと気に入っている部分:
She was sitting bolt upright in her chair, her fists clenched on its arms, every trace of drowsiness gone.
彼女は椅子に座ったまままっすぐ姿勢を正し、こぶしを腕にしっかり握りしめた姿からは、眠気がすっかり遠のいていた。
「こぶしを腕にしっかり握りしめ」というのはちょっと変かもしれないし、「姿からは」というのも原語にはないんだけど、雰囲気は出てると思う・・・んだけど。
'We've been trying to get stuff out of you for a month and you haven't told us a single stinking thing!' said George.
「僕たちは何とか情報を得ようと一ヶ月も努力したのに、たった一つの屁さえも洩らさなかったじゃないか!」とジョージが言う。
ジョージはいつもふざけているから、このくらいの言葉でちょうどいいんじゃないかな(;^^;)
しかしこれも見直してみると、「たった一つの屁さえも」というのはa single stinking thingという英語の語順に引っ張られているんだね。「屁の一つさえも洩らさなかったじゃないか!」という方が日本語的だろうな。
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コメント
Takiさんトラックバック有難うございました。実は既に記事は熟読させていただいておりました。stinking thingの訳し方、大変勉強になりました^_^;。
投稿: ゆうけい | 2004/09/11 14:17
ゆうけいさん、コメントをありがとうございます。トラックバックは実は記事を書いたときに送ったはずなのですが、どこかをさまよっていたようでかなり遅れて届いたようです。今でもこんなことがあるんですね。
a stinking thingの訳は文字通り「臭いもの」ですから、それほど自慢できるものではないです。お恥ずかしい。
stinkという語を最初に聞いたのは多分、映画「トップガン」でトムクルーズが「You stink!」と相手を馬鹿にしたときに言った台詞で、妙に印象に残っています。
下記にトップガンの台詞の一部がありました。
http://www.imdb.com/title/tt0092099/quotes">http://www.imdb.com/title/tt0092099/quotes
I am dangerous.という台詞もちょっとびっくりして記憶に残っています。
投稿: taki | 2004/09/12 23:46