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2006/05/14

Picturing America/Whitney Museum of American Art

Lichtenstein雨が上がって晴天となった今日、「アメリカ-ホイットニー美術館コレクションに見るアメリカの素顔」を、例のコンクリート迷路、別名「芸術の館-兵庫県立美術館」に見に行った。

駅のポスターなどで知っていたので是非にいこうと思っていたのだが、ゆうけいさんがblogで記事にされているのを読んで会期が14日までしかないことを知りあわててしまった。しかしおかげさまでぎりぎりの最終日の今日、やっと見ることができた。最終日とはいうものの、やはり日本ではアメリカンアートはそれほど人気はないのだろう、観客は適度に少なめでじっくりと落ち着いて見ることが出来た。

Moma92仕事柄、アメリカンアートには割りと縁があるはずなのだが、著名な作家の作品を実際に意識的に見たのはひょっとすると今回が初めてかもしれない。というのも、近代から現代の絵画は分からないものという思い込みがどうしてもあって、やはりヨーロッパなどの名画に関心が行きがちだったからだ。だから、80年代後半から90年代半ばまでは何度かアメリカの美術館を訪れる機会があったにもかかわらず、アメリカンアートというと、見たものとしての記憶は今回も展示のあったホッパーくらいしかない。特にNYのMOMA(近代美術館)には3回くらい行ったはずなのだが、キリコやマグリット、ピカソあるいはあの馬鹿でかいモネの「睡蓮」などは覚えているものの(写真も撮っている)、今回、展示にあったウォホール等のアメリカの作品は見ているはずだが記憶にない。ポロックもMOMAで大作を見ているはずなのに記憶にないのはまったく悔しい。ホイットニー美術館もその前までは行ったが、休館日で入れなかったと思う。イメージは92年に訪れた際のMOMA、この時はピカソの特別展があった。Moma922
ちなみに僕が見たホッパーの作品はシカゴ美術館にあるNighthawksで、これは色んな作家がパロディーにしたりして超有名なので、だから覚えていたのだと思う。

ということで、やっと見に行ったのだが、戦後、芸術の中心がパリからニューヨークに移ったというそのエネルギーを確かに感じられた。順路に沿ってみていくと、マーク・ロスコ、バーネット・ニューマン、フランク・ステラ、ピーター・ハリー、ヘレン・フランケンサーラーなど、名前だけは覚えている人の作品が並んでいる。

現代絵画は特に現物と印刷物では大きく違うように思う。リキテンスタインも、印刷物でみると本当に単にコミックを拡大しただけのように見えるが、実物を前にするとすごい迫力だ。肌のドットは見ていると目がぐるぐる回ってきて吸い込まれそうになる。そのドットに対し、髪や唇、服の色はベタに塗ってあるだけとは思えない存在感は何といっていいのか、すごい。

僕はどちらかというと前半の抽象画に圧倒された。フィリップガストンの「ダイアル」、ハンスホフマンの「黄色いオーケストラ」など、色彩と形、筆使いがぐいぐいと迫ってくるのが感じられる。「写真ができてからは人間が描く絵画は写実ではなく抽象に向かうのだ」、とどこかの画家が言ったとか以前に聞いた記憶があるが、確かに泰西名画とは全く違った強大なエネルギーを感じる。直感的というのか原初的というのか、得体の知れない圧力がある。

以前なら、このような絵を見ても「そんなもんか」、で終わっていただろうが、抽象画にこれほど圧倒されるとは、ここ2年ほどはTVの美術番組を見たり美術展に行ったりしていたおかげだろうか、僕も少しは進歩したようだ。

フランケンサーラー(アメリカ人がいうとフランケンソラーのように聞こえるんだけど)は仕事の関係で何度も名前は耳にしていて、スライドなどでは作品を見ているが、現物を見たのは初めてだ。ぱっと見には何だかよく分からず、本当にシミのようにしか見えないのだが、しばらくして離れたところから見ると、まるで人と植物が一緒にいるような奇妙なシルエットに見えて面白い。生キャンバスに油絵具を薄めてにじませたステイン技法だが、油だけが色の周囲へ染み出してしまっているのがよく分かる。油絵具の油はサラダ油などと同類の植物油だから、CMなどでもおなじみの脂肪酸が含まれている。だから長い年月の間にはキャンバスの繊維が酸によって劣化してしまう問題がこの技法には含まれている。だから、その後は彼女も油絵具は使わず水性のアクリル絵具を使っている(門前の小僧で知った聞きかじりですが)。

アクリル絵具といえば、今回も使用材料に「アクリル」という表示はなかった。なぜかは分からないが、アクリル絵画先進国のアメリカであるにも拘らず、アクリルとは書かずに合成ポリマーなどという表示になっているのだそうだ。今回の作品でポリマーとかの表示があるものはほとんどはアクリル絵具を使っていると思われるが、日本語表記もアメリカ側の表記をそのまま訳しただけのようだ。ただ、中にポリマー乳剤とかいうのがあったが、英語はpolymer emulsionとあり、要するに水性アクリル樹脂のことだ。そのままエマルジョンとしてもかまわない。乳剤というのはこの場合は変だが、美術館側も現代絵画の材料についての知識が不足しているのではないかと思う。

ニューマンの「ヒアIII」は、細長い単純なステンレスだけなのに、なぜかどんどん視線が上へ上へと引っ張られる。ステラの色彩で塗り分けられた同心の四角、それからピーターハリーの蛍光色とブツブツした質感の作品なども実物をみなければその真価は分からない。表示には「蛍光塗料」とあったが、あれは絵具だと思うんだけどな。英語では絵具も塗料もpaintなのだが。

コッティンガムの超写実な作品は伝統的な油彩画のようでありながら不可思議な非現実感がある。まるで村上春樹の小説のよう、かな? コラージュも今まではあまり気にしたことはなかったが、ラウシェンバーグの作品で納得できたように思う。素晴らしいと同時に楽しい作品だった。

カリーの「カンザスの洗礼」では、アメリカ人の宗教感覚がよく現れていると同時に、伝統的な天から降りてくる天使の代わりに鳩が飛んでいるのが面白かったが、僕の目を引いたのは地平線だ。日本だと北海道でも行かないとないだろうが、とにかく四方八方何もない平らな地平線の中にぽつんぽつんと農家が、それこそ100マイルなどという距離を置いて点在している、あの距離感はちょっと日本では想像がつかない。そんな中から生まれるフォークアートとニューヨークなどの大都会のアートが混在しているのが面白い。

ブレックナー、ヘリング等についてはゆうけいさんが書かれている通りで付け加えることは何もありませんが、ヘリングの祭壇衝立は、いつものあの子供の書いたようなフォルムでありながら不思議な神聖さがあった。

今回の展示作家の多くはまだ存命であったり、それほどの年齢ではない人もいたりで、だから僕が名前を知っているというのも米国の取引先が作っている絵具を使っている作家が多いからだ。日頃はほとんど作品に接する機会がないが、こうして世界的な作品としてコレクションされているのを見ると、材料というものに要求される品質を考えざるを得ない。特に近代から現代には様々な、それこそゴミのようなものまで材料になっているが、それが一体全体保存ということを考えた場合にどうなるのかを思わざるを得ない。

先の蛍光色などは室内でもやがては退色してしまう運命にあるし、オルデンバーグのソフトトイレットはビニール製のようだが、白い部分は既にやや黄変してきているようだし、ビニール地は塵などがついて取れなくなるとか、徐々に可塑剤が抜けて硬くなるとか、問題がありそうな気がする。へリングの防水シートも多分ビニール地なのではないか?

うーん、書き出すときりがないな。ゆうけいさんが書かれていたように「普通の美術展と趣・質感の違う雰囲気」を大いに楽しめると同時に様々なことを考えさせられた、充実した展覧会でした。

さて、次は神戸市立博物館で開催中の「ボストン美術館所蔵-肉筆浮世絵展」を見に行かねば。

*この記事は5/14の夜に投稿するはずだったのだが、相変わらずのココログ。全く投稿できず、今日15日もきわめて劣悪な状態。本当にやってられない。

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コメント

 takiさんおつかれ様でした。カンサスの洗礼も目玉の一つでしたね。私は顔面蒼白の牧師のポーズが「ライブ」のデビッド・ボウイに似てるな、とか不敬なことを思ってました。不敬ついでに言えば「The Lord Is My Shepherd」という題名を見てえっキリストさんがシェパード?とか訳のわからん想像をしてしまいました。ダ・ビンチ・コードじゃ無いけど、キリスト教の素養がまだまだ足りないです(汗。

投稿: ゆうけい | 2006/05/19 20:28

ゆうけいさん、コメントをありがとうございます。今回は新しい発見がたくさんあり、楽しい展覧会でした。
アメリカ人の宗教観は、あのブッシュに見られるようにかなり極端な場合が結構あるみたいですが、それは「主は我が牧人」や「カンザスの洗礼」にあるような大自然と孤立感の中で醸成されたものかな、と思ったりしました。
この絵を見たとき、実は僕も一瞬、タルの中で男女がなにしてんだ?って不敬な想像をしてしまいましたが、こんな洗礼もあるんですね。

投稿: taki | 2006/05/19 21:57

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