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2008/11/09

Vilhelm Hammershoi

美術展にたまに行くが図録(カタログ)は仕事に関係している場合以外は買ったことがない。

本物を見れば十分という気持ちが第一だが、物臭なので買っても見ることはまずないだろうし、重いし、高いし、邪魔になるし、などなどの理由もあって買わない。せいぜいが絵葉書を買うくらいだ。

Catalog_l しかし先月、東京出張の際に上野国立西洋美術館で見た「ヴィルヘルム・ハンマースホイ」は別だった。その場では買おうとまでは思わなかったのだが、後で美術館のサイトなどを見ているうちにどうしても欲しくなり、美術館の通信販売で申し込んでしまった。一週間ほどかかったが、やっと到着したのが数日前のことだ。

Dscf2277 10月21日火曜日、午後の時間が空いたのと、夕方からの仕事が上野だったことから、午前中の仕事が終わり、同行していたアメリカからのお客様をホテルに送ったところで近くのコーヒーショップで軽く食事をとった後、急いで上野に向かった。

ハンマースホイ展を見ようと思ったのは、モーリスルイス展のことを調べていて見つけた、TakさんのBlog「弐代目・青い日記帳」で次のように紹介されていたからだ。

ヴィルヘルム・ハンマースホイ展へ急げ!
何年かに一度、「この展覧会を見逃すと一生後悔する」類のハレー彗星の如き展覧会がこっそりと開催されます。「○○美術館展」(特にルーヴル)など毎年のように開催されどう考えても食傷気味。

それとは全く対照的な「今行かなくてどうする系」「これ見逃すと絶対に悔やむ系」の展覧会。それが現在上野国立西洋美術館で開催されている「ヴィルヘルム・ハンマースホイ 静かなる詩情」展です。
- 弐代目・青い日記帳 | 「ハンマースホイ展」
- 弐代目・青い日記帳 | 「ハンマースホイ展」(ロンドン)
- 弐代目・青い日記帳 | ヴィルヘルム・ハンマースホイ展へ急げ!
Dscf2278_2 Takさんの紹介記事を読まなければ恐らくは同じ上野にある東京都美術館で開かれている「フェルメール展」を見に行っただろう。しかし2000年に天王寺の大阪市立美術館で開かれた「フェルメールとその時代展」を見に行ったし、兵庫美術館の「ドレスデン美術館展」でも一点だけだが展示されていたし、これは内緒だが(ウソ)何といっても昨年のアメリカ出張の際にメトロポリタン美術館でも二点を見ているのだ。だから今回は迷わずハンマースホイ展に向かった。
- 後で気がついたのだが、美術館入り口を写した写真で、女性の後姿のポスターを写している女性の後姿が写っていて、偶然とはいえ面白い写真になっていた。

まずは何といっても展示の多さだ。展示は地下になるのだが、これで終わりかと思うとまだまだ次の部屋があって、展示が続く。やはり東京の美術館は大きい。展示番号は最終的には80を超えていたが、カタログを見ると86点もある。一人の作家でこれだけの作品数を見たのは初めてだ。

一般にいわれるように、全体がグレーに霞がかかったような画面は暗い。ただ暗いだけではなく、これほど見ることにエネルギーを取られた画家もなかったと思う。

時代がまるで違うが、例えば9月に見た川村記念美術館でのモーリスルイスは包まれるような暖かさを感じたし、バーネットニューマンはあふれるエネルギーを感じたが、ハンマースホイの絵は見ているほどに消耗するようなところがある。その点ではポロックの絵に似ているのかもしれないが、ポロックは頭の中をかき回すようであるのに対し、ハンマースホイはあくまで静かだ。

だから椅子のある部屋に来るとしばらくはそこで休憩しなければ次に進めなかった(もちろん、展示が多いために身体的にも疲れるということもあったが)。

とはいってもう見たくないということでは決してない。実に灰色で暗いのだが、徐々に心の中に入り込んでくる。だからこそ、カタログを買ってしまったのだ。

さて、概要については上記のTakさんのリンクを読んでいただいた方がずっとよいのだが、僕なりに感じたことを書いてみる。

大半は彼の家の中を描いているのだが、人がいない情景、いても後姿がほとんどだ。それから予想されるような見る人を拒絶するような面もないとはいえないが、絵の前に立つとむしろ逆にその中に引き込まれてそのまま迷路の中を彷徨い(さまよい)そうになる。

_1905 Takさんが書かれているように、人のいない部屋の向こうへ扉が開いて、ついさっきまで誰かがいたような気配が感じられる。

Interior_2 一方で女性の後姿が見えると、僕は部屋に入って手を伸ばし声をかけようと近づこうとするが、その途端、女性はスーッと滑るように次の部屋に移っていく。

それを追って次の部屋に入ったときには、先ほどの誰もいない部屋のように彼女は既に別の部屋に移ってしまって姿は見えない。しかし確かにその気配は感じられる。

だからまた次の部屋に入るのだが、再びそこには気配しか感じられない。そしてその部屋で立ち止まると彼女も次の部屋で立ち止まっているに違いないのだ。

永遠に追跡しても決して部屋は尽きることなく、女性はつかず離れずに一定の距離を保って前方にいながら、追いつくことができない。まるでゲームの中のダンジョンに迷い込んだような錯覚に捕らわれる。それがエネルギーを消耗し疲れを感じた原因ではなかったかと思う。

解説などではフェルメールの影響があるいわれ、「北欧のフェルメール」などとも書かれている。

確かに家の中に女性という構図はフェルメールを思い起こさせるが、僕の印象といえば、フェルメールの世界は既に死滅し、それはハンマースホイの絵の中で異次元、あるいはあの世(霊界?)となってフェルメールの女たちが幽霊のようにさ迷い歩いているのだ。

Fh020003 ・・・というような話は一面的な印象でしかないのであるが、これらの絵を見ていて思い出したのは、キリコ、そしてマグリットあるいはデルボーの絵だった。右はもう随分以前になるが、1992年にニューヨークへ出張した際にMOMAにあったキリコの部屋で写したものだ。

偶然だが、少し前のTV番組「美の巨人たち」によると、マグリットはキリコの絵を見て感動し号泣したのだそうだ。

ハンマースホイの不思議な静寂感は、そのままキリコそしてマグリットの静寂感につながり、デルボーの灰色につながるのではないか、とは僕だけの考えかもしれない。しかしフェルメールはデルフトに留まり、ハンマースホイはコペンハーゲンに留まり、マグリットもブリュッセルに留まったのは、何か因縁があるのでは、と思いたくなるところである。

1 左は比較的明るく暖かな風景を描いた「ゲントフテ湖、天気雨」のページを開いたカタログ。ただしこの絵もカタログの説明によれば、「実際は、最も交通量の多いコペンハーゲンの幹線道路が描かれているにもかかわらず、ここでは静けさのみが描かれている」。絵の中には人気はなく、静謐そのものである。

ハンマースホイと同時に、彼の友人たちの絵も展示されているが、そちらはかなり明るい。しかし同じように女性の後姿が多いのは時代の流行であったのかとも思う。

ハンマースホイに酔ってやや疲れた後は、その入場券で常設展示を見ることが出来る。

2_2 常設展示はかの松方コレクションであり、国立西洋美術館はもともとその展示をするために作られたと聞いたような気がする。松方コレクションも書ききれないほどの素晴らしい内容だが、中でも僕のお気に入りはマリー=ガブリエリ・カペの自画像だ。

これだけの展示だから、午後の時間一杯をつかっても一方通行で通り過ぎるようにしか見ることは出来なかったし、かなり疲れてしまった。

しかしこれからまたこの上野で一仕事が控えている身としては、後ろ髪を引かれつつも美術館を後にした。

Dscf2279 美術館を出るとこれから何かパフォーマンスをしようと準備をしている人がいる。

Dscf2280 通り道には色々な展示会の看板が出ている。手前でかもしているのはお馴染み「もやしもん」のオリゼー君。国立科学博物館で開催中の「菌類のふしぎ」のポスターだ。これもTakさんのレポートをお読みください。楽しそ~う。

その向こうは「フェルメール展」、「童画の世界」、「線の巨匠たち」と看板が続く。上野は芸術の宝庫です。

Dscf2282 こちらがこれからのお仕事の大学の門、でもここからは入らなかった。

Dscf2283 「線の巨匠たち」は多分この東京藝術大学美術館で開かれているのだけれど、その横を通り過ぎて仕事に向かったのだ。美術館横のカフェでは学生たちがたむろしている。

美術館サイトにあるflash画像によるハンマースホイの自宅再現CG(展示終了後、リンク先はなくなりました)は必見です。あなたもストランゲーゼ30番地のダンジョンを彷徨ってください。

「ハンマースホイ展」は12月7日まで。これほどの展示は二度とないでしょう。近郊の方は是非ご覧ください。

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コメント

こんばんは。
TBありがとうございました。

またまた拙ブログご紹介頂き恐縮です。
少しはお役に立てたようで嬉しく思います。

ハンマースホイは語りだすときりがないので
やめておきますが、記事中で書かれていらした
マグリットとキリコのお話大変興味湧きました。
確かに言われてみれば!

投稿: Tak | 2008/11/09 00:53

Takさん、コメントをありがとうございます。
時間を見ますと記事をアップしてすぐにコメントをいただいたようです。毎度のことながらアップしてからミスをみつけたりして文を直しているので、お見苦しい文ではなかったかと思います。
Takさんのおかげで素晴らしい絵に出合えてとても感謝しています。ありがとうございました。

投稿: taki | 2008/11/09 17:47

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