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2013/02/04

キャンバス/サンティアーゴ・パハーレス

「キャンバス」というタイトルだけ見て借りた本。

キャンバス:サンティアーゴ・パハーレス(著)、木村榮一(翻訳)

Canvass なかなかと面白かった。少なくとも帰りの電車の中で眠ることもなく読み続けた本というのは最近はなかった。ただ、面白い本というのと、素晴らしい本というのはちょっと違うかと思った。

天才画家とその息子、その二人をとりまく登場人物たちの人間模様、そして画家の歴史的名画をめぐるミステリーが、スペインの街とプラド美術館を舞台に繰り広げられるが、同時に天才の苦悩、天才と秀才の違いとは、そして美術館に絵画を見に来る観客の様々なあり方などの人物像が描かれる。

とはいえ、登場人物の描写は今一つ紋切り型だったり、総花的にちりばめる以上には掘り下げがなかったり、どんでん返しが何度もあるとはいえそれほどの意外性があるともいえなかったりする。僕はミステリー愛好家ではないけれど、ミステリーとしても文学としても、もう一つといえるかもしれない。

Canvasr_2 そういう面では、同じ絵画を扱った原田マハの「楽園のカンヴァス」と似ている。似ているのは、ミステリーとして中途半端なところとか、同じく絵画を扱っているとか、タイトルが似ているとか、色々とある。僕の感想としては「キャンバス」の方が小説としては少し上かと思うが、それは小説家としての原田マハ氏と翻訳家としての木村榮一氏の文章力の差もあるかもしれない。

物語の道具立てとしてはさすがに元キュレーターとして世界を舞台に活動した原田氏に軍配が上がるが、人間描写ではパハーレス氏の方が彩りがあるかと思う。

しかしそれ以上に気になったのは、絵画そのものについての共通性だ。

「キャンバス」の発表が原書は2009年、翻訳本が2011年12月、「楽園のカンヴァス」は2012年1月という時系列から考えると、「キャンバス」の原書の筋立てを知った原田氏がそれに着想を得た可能性がないとはいえない。

ただし決して真似しているとかそういうことではない。大体が「キャンバス」では架空の存命中の画家の絵をめぐる話に対し、「楽園のカンヴァス」では実在だが過去の画家の絵をめぐる話だし、ストーリーの中でのそれぞれの絵画の役割、周囲の人間模様も全然違う。ただ絵については共通性があると僕は思っている。

まぁ、この二つの小説を読んで共通性があるとか何とか七面倒臭いことをいうのは僕くらいなもので、それは、Keith Jarrettの弾いている「My Back Pages」と「Koln Concert PartIIc」に共通性があるというよりも無理があるかもしれない。

その昔、NiftyServeのジャズフォーラムで、ケルンコンサートの最終曲(PartIIc)はBob Dylan作曲のMy Back Pagesからヒントを得て作ったに違いないと書いたら、それは違うと強く反論されたことがある。確かに共通項はAm-Em-Fというコードつながりと「ドシラソ」という最初のメロディーの音列だけなんだけどね。この二曲を聴き比べて、どう思いますか?

しかしKoln Concertはジャズ史上に残る素晴らしい演奏だ。

ところで、Canvasの日本語表記は困ったものだ。仕事関連の材料業界ではキャンバスと書くのが一般的だが、美術界、つまり美術館や美術書ではカンヴァス、あるいはカンバスと書いてあることが多いように思う。一方でキャンヴァスというはほとんどみない。

感覚的にはキャンバスは材料そのものの感じがするが、カンヴァスと書くとちょっとお高く止まったスノッブな感じがするのは僕だけかもしれない。でもAmerican EnglishとQueen's Englishの発音違いという点でもそれは当たらずとも遠からず、かな?

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