街道をゆく - 愛蘭土紀行
このところ、ずっと司馬遼太郎の「街道をゆく」シリーズを読んでいる。もちろん、いつものように図書館で借りている。
最初は順番に読もうかと思い1巻から借りたのだけれど、別に好きなところから読んでも変わらないようなので、次に「ニューヨーク散歩」を読んで、今は「愛蘭土紀行(アイルランド)」の下巻(II)を読んでいる。その間に「神戸・横浜散歩、芸備の道」の神戸・横浜だけ読んでいてこれも面白いけど、地元つながりなので省略。
ニューヨーク編は以前に読んだリービ英雄の「大陸へ」に「司馬遼太郎はアメリカで中国を思う」みたいな事が書いてあったので、何を思うんだろうということと、何度も行った都市なので馴染みがあったからだ。
で、何が書いてあったのかな、そうそうコロンビア大学でのドナルド・キーン氏の定年退官記念式典に出席する話に関連して、アメリカにおける日本語研究などが書かれている。
その中でガイド役にインドラ・リービという大学院生が出てくるのだが、何か記憶にある名だと思ったら、リービ英雄の妹だったのだ。かなり以前だが、「リービ英雄とその妹インドラ・リービの往復書簡」で見たのだった。兄妹ともに日本語研究者なのだ。この書簡は英文を誰かが訳したものと思っていたが、インドラさんが日本語で書いたのだろう。そこらの日本人よりもよほど素晴らしい日本語だ。
愛蘭土編では、現地の大学で教鞭をとる日本人のゲール語研究者が出てくるが、母国語でない言語を研究する人はどこにもいるものだ。
1巻でも京都大学で日本語を研究する英国人が同行したりするが、司馬遼太郎は言語と文化、歴史のつながりを重要視しているようである。まぁ、当たり前といえば当たり前か。
1巻では、近江の国はもともと朝鮮人が移り住んでできた国ということと、奈良の三輪山をご神体とする大神神社が本来は伊勢神宮よりも出雲大社よりも社格が上なのだが、誰も知らない、ということが印象に残っている。
アイルランドについては今までほとんど知識がなかった。この本を読んでつくづくそう思った。大体が英国の一部みたいな感覚しかなかったのだが、別の国であり、英国に支配され搾取され虐げられてきた長い歴史があることがよくわかった。ローマ帝国さえも征服しにこなかった辺境の貧しい土地、そのためにヨーロッパ文化の発展から取り残されてきたということや、ガチガチのカトリック教徒の国というのも、塩野七生の本を連想して面白い。
また、アイルランド人気質とアイルランド系アメリカ人、ジョン・フォードの映画など、アイルランドの歴史から紐解いていて興味深い、といってもジョン・フォードの映画はよく知らないのだが、それを知っているのと知らないのとでは、まったく見方が違ってくるだろう。
ちなみに、ダーティーハリーもアイルランド系という設定になっているそうで、これも典型的なアイルランド気質なのだそうである。まぁ、ある種のステレオタイプなのかもしれないが。
アイルランドにはリヴァプールが玄関口になっているということで、リヴァプールにはアイルランド系の英国人が多く、ビートルズのうち3人がアイルランド系と書いてあって、僕は初めて知ったのだが、ネットを見ると、まぁ、常識なようだ。
アイルランド人は独特のユーモア感覚、それをDead Panというのだそうだが、根こそぎひっくり返すようなユーモアなのだそうである。
その例として、ビートルズがアメリカに行った時のインタビューが書かれていた。愛蘭土編上巻は返してしまったのでうろ覚えだが、「ベートーベンをどう思うか」という質問(愚問である、と司馬氏は書いている)に対し、「悪くないね、特に彼の詩がね」とリンゴ・スターが応えるという有名な話があるが、これは相手の質問だけでなく、記者、ひいてはアメリカ文化を根こそぎひっくり返してしまうような愛蘭土的ユーモアなのだそうである。単なるジョークという見方もできるが、司馬氏のような考え方をすると、彼らのユーモア感覚がいわゆる英国風ユーモアでは捉えるべきではないと思えてくる。
これを読むと、リンゴ・スターはアイルランド系のように思えるが、検索してみると彼のルーツは不明なのだそうで、他の3人がアイルランド系なのだそうである。
ジョン・レノンの生き方もこの本からすれば、典型的愛蘭土人といえそうだ。オノ・ヨーコとの間にできた子供の名前がショーン(Sean)だが、この名前はアイルランド特有の名前だと、この本に書いてある。ジョン・レノン自身がアイルランドを意識していた証だろうと思ったのだが、それも別に目新しい知識では全然ないのだった。
ポール・マッカトニーはどちらかというと常識人的であまり愛蘭土的ではないような気がするが、「アイルランドに平和を」という曲を1972年に作っている、ということも、この頃はビートルズメンバーの活動には興味がなかったので知らなかった。もちろん、ジョン・レノンも同様の歌を書いているというのも全然知らない。
ちなみに、ここでいう愛蘭土はアイルランド共和国のことであり、歌のもととなった北アイルランドとは別ということも恥ずかしながら知らなかったのだが、ジョン・フォードの時代にはアイルランド全体が独立闘争の場だったということである。ジョン・フォードについては、まるで映画のシナリオのような話が書かれている。
しかし、司馬遼太郎とビートルズというのは、最もありそうにない組合せではないだろうか。ただし、当たり前ながらビートルズのことは少し書いてあるだけで、僕が勝手にイメージをふくらませているだけだ。
アイルランド編を借りたのは、愛蘭土という文字が魅力的だったからだが、司馬遼太郎の懐の深さを再認識する本である。
次は「耽羅紀行(韓国)」を読む予定。とにかく、子供の頃からこうした紀行文というのが好きで、小学校のころは図書館で世界の旅シリーズみたいなのを借りて読んだり、TVの「兼高かおる世界の旅」をみたりするのが好きだった。ただし、最近のバラエティー番組風の旅行ものはまったくみる気がしない。
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